愛着障害とカウンセリング
愛着障害とは、子供のころにその養育者(母親や父親など)から適切でない養育環境、そして虐待(精神的、身体的)などの体験により、5歳前後から生じる過度な恐れ(恐怖感)、警戒心、そして社会的な相互交流の乏しさ、自分そして他者への攻撃性、自尊心の低さなどを呈するものとされています。
幼小児期には上記のような症状を呈していたものの、放置された結果、おとなになってからうつ病やパニック障害などを発生し、受診にいたるケースがあります。
愛着とは子供の情動面や情緒面の基盤となるものであり、人格形成には非常に大きな働きをもたらします。こどものころには母親、そして父親、その後は両親以外などの間で形成されることがほとんどであります。
愛着障害でありながらも発達障害であるADHD,自閉症スペクトラム障害(アスペルガー)と似た症状を呈することもあるために非常に診断には難しいところがあります。
治療を実践している臨床家として感銘させられる場面は、長年苦しめられ支配されてきた恐ろしいトラウマ(虐待)、辛い現実から逃れるため依存という手段を使い続けてきた歴史、また解離という最終手段を駆使して自分を守ってきたことを周囲から理解も得られず孤独に苛まれてきた、これらが自己の置かれた育ちの環境から発症したであろう悲劇的な出来事から不死鳥のように舞い上がるその瞬間です。
リスクが多く高く、多くの支援を必要とするクライアントたちには、幼少時から(乳幼児期から思春期に至るまで)、未解決で否定的な体験をしているという共通のパターンがあります。否定的な体験には、ネグレクト、置き去り、虐待、そして、その他のタイプの喪失体験やトラウマ体験が含まれています。こうした否定的な体験は、成長過程の脳と成熟した脳、また個体の辺縁系と皮質の両方の組織に影響し、それらの組織は、後に知覚、情動、そして行動のプロセスに、結果として発達のプロセスに影響を及ぼします。
この発達上の傷は、未成熟、不安が強い、もしくは臆病な反抗的な防衛的なクライエントの心の奥底に横たわっています。精神機能が一見高く見える協力的で自己言及的で裕福な家庭で育った人々にも数多く見受けられ、複雑で慢性的な徴候は、この発達上の傷を反映しています。この傷は以下のことが見落とされてきたことを意味します。安心、安全の基盤である愛着の形成に欠かせない情動的調律は、人の内的な状態が他の人の内的な状態と瞬間的に重なり合い、それぞれがお互いに相手を感じていることが“分かる”ことで成立します。調律が生じると関わり合っている双方の脳が“同時に調整”配線を接続し、自己調整することが可能になります。そして、赤ちゃん、子どもが“分かっている・感じている”ことで、安定した愛着形成を獲得することができます。
情動調律が欠けると、配線を持たない愛着は妥協の産物となり、ばらばらになり、皮質の構造は最善の状態で発達できなくなります。虐待的な環境に晒されている子どもたちの神経回路は、社会性から外れ、それに応じた行動化をしやすくなります。もし、情動統制と健康的な自己意識のための“右脳の鋳型(豊かな感情)”が発達の機会を奪われたら、後に精神病理が生じます。虐待やトラウマによって調律が欠如すると、偏桃体と海馬の機能が危機に晒されます。しかし、脳には可塑性があり非常に柔軟性に富んでいます。環境さえ整えられれば機能的な再構築を行うことができます。
眼窩前頭皮質(社会脳:社会関係、情動統制、自己知識の統合)は生涯を通じて柔軟であり続け、子ども時代を過ぎても発達可能な状態にあります。心理療法は強力な文脈を産出し、その中での調和・調律の反復発生的な体験が、健康な心理的発達を促進する愛着の経験を生じさせます。養育的で安全な関係を創り上げて発達に焦点を当てたセラピーは、発達に遅れのある人に対して、さらに発達した対象関係を育成することになります。心理療法は“発達上の取り戻し”に整えられた環境を提供します。ここに神経生理学的な修復と成長の可能性が存在し、これらの調律された体験は、情動調整を媒介する右脳組織へと入って行きます。
<愛着障害の治療>
愛着障害の治療の基本は心理的な治療が主体となっていきます
カウンセリングやさまざまな心理療法が適応となっていきます
治療の文脈のなか、クライエントの置かれた育ちの環境から発症したであろう悲劇的な出来事から、人の崇高なすさまじい回復力が心理療法によって呼び覚まされ、セラピストに厳かな“生まれ直し”“命の誕生”に携わっているかのような感覚が沸き上がってきます。