トラウマ治療の治療者が語る
~薬物療法と心理療法のコンビネーション治療の必要性~
当院には現在大学院博士過程にも所属し、臨床とともに研究活動をおこなっているEMDR治療・臨床心理士である木村肇が在籍しています。
木村は現在EMDR治療の導入がさまざまなメンタル疾患において応用できる治療であるかを研究も行っています。ここではいかに心理療法が大事かを述べていただきます。
臨床医の義務は、教育的な検討を継続し服薬の重要性を強めること、向精神薬は病気を治しはしないが、苦痛や能力低下を生じさせないようにするということを理解させることにあります(Sadock,2015)。サドックは、カプラン臨床精神医学テキストやカプラン精神科薬物ハンドブックで、精神療法に意識を向けさせる服薬遵守、そして、精神健康の回復・治療に、精神療法(心理療法)は欠かすことができないことを提示しています。
そこで日本の精神保健の現状を顧みますと、OECD・経済開発機構は、『日本の精神医療制度はOECD諸国の中で、精神病床の多さと自殺率の高さなど悪い意味で突出している。また、日本がうつ病や不安神経症などの軽度や中程度の精神疾患にも注意をむけるべきと提案し、心理療法を中心として、軽・中程度の患者のためのエビデンスに基づく広く行き渡った治療プログラムの作成を検討すべきである』と勧告しています(OECD,2015)。厚生労働省の調査で、医療現場での精神療法を十分に行われていると答えた日本の医療機関は、わずかに過ぎないとしています(厚生労働省,2004)。実際、臨床現場でも精神療法を受けた経験があるという患者を見受けることができないでいます。この現状に具体的な対策として、OECDは、心理療法の拡大のためプライマリケアという制度導入を提案しています。
プライマリケア(一次診療)は精神症状を呈した患者の第一義的な受け皿で家庭の健康保健に根付つく総合医の下、投薬及び精神科医、心理療法家への紹介などのサービスを提供するものです。精神疾患に対する門戸を広げ、また偏見の排除にも役立つかもしれません。現状の日本は上記のとおり、この体制になく、患者が求めている心理療法の需要に対する供給が追い付いておらず、ほとんどの患者があって然るべき治療を受けられないでいます。日本の突出した自殺率の高さを鑑み、患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、このプライマリケア制度導入、そして精神科医、臨床家へとつなぐ、が検討すべき喫緊の課題ではないでしょうか。
この課題に対し社会的に取り組むには、OECDが勧告するとおり、心理療法を中心として、エビデンス・科学的根拠に基づく広く行き渡った治療プログラムの作成を検討する必要があります。そこで、国際トラウマティック・ストレス学会(2000)、英国医療技術評価機構(2011)、WHO・世界保健機構(2013)は、トラウマに対処できる効果的な方法としてEMDR療法を掲げており、本研究は、ここに焦点を当てました。精神症状の基底に過去及び現在のトラウマやトラウマテックな出来事があるとされていますので、過去を扱うことができるEMDR療法の拡大がこの課題に応えることになります。本研究の目的は、安全でエビデンス・科学的根拠に基づいた精神療法・心理療法が広く行き渡るところにあり、そのための知見を探索して参ります。