こどもの発達障害については、専門検査を要するためこどもの発達障害が疑われる場合は専門病院へご紹介させていただくこととなります。特段発達障害的な要因がない場合は、当院での心理療法やカウンセリングは可能と思われます。
不登校やひきこもりとEMDR治療~トラウマ治療を行うこと~
最近の文科省の調査、教育、また医療現場でも、不登校は、小学校、中学校、高校、大学を問わず年々増え続けているのが現状です。教育現場では、小学校、中学、高校や大学でも悩みのある生徒学生へのカウンセリング、保護者、教職員への助言・援助を専門的な知識と経験を有する臨床心理士等が配置されているところが多くあります。しかし臨床心理士は、学校では校長の指揮下に入り、相談を受けても治療行為ができず対話療法という従来の話を聴くに止めざるを得ないのが実情です。
文科省の調査で不登校の理由は、40%が無気力、人間関係20%、勉強20%であり、そのきっかけや継続の主な理由は、「いやがらせやいじめ」「先生との関係(皆の前で厳しく叱る。意図的に無視する)」「クラブ活動での友人や先輩からのいじめ」「勉強が分からない」など不健全な人間関係です。今まで数多くの生徒学生の治療をしてきましたが、不登校理由は、臨床現場でもこの調査とおりです。耐え難い酷い環境に晒され、圧倒的な力でねじ伏せられ、自力脱出できない苦痛な状態が続くと、生命危機のような感覚を覚えトラウマになってしまいます。また、勉強のつまずきを発端とし、このことを誰にも打ち明けることもできず、将来への不安と恐怖、戸惑いと無気力のなか、不登校という選択をせざるを得なくなります。私たち人は、このような厳しい環境に晒されると、話を聴いてもらうだけでは対応仕切れず、精神症状を表出させ反射的な自己防衛の反応が起こります。
いいかえれば、不登校という手段を選択することで、危険な環境から、身を遠ざけ、護り、安全を死守していることになります。学校が楽しい場所ではなく、危ない場所と感じているのです。勉強のつまずきも、孤独や自己否定、自責の念を感じさせてしまい、皆と違う、人と違うことへの、人間の基本的な感情・恥らいではなく、他者から恥を晒らされるという、とても辛い場所という感覚になってしまいます。この感覚になってしまうと、動物も人も皆、反射的に神経システムが反応し、危機対応として、まずは交感神経システムを発動させ闘争(非行、暴力行為)に出るか逃走(不登校)するかになります。それも阻止されるとどうなるか?シャットダウン神経システムが働き、逃げ切れなければ最後の手段「仮死状態」です。危険が払拭されてない現状の学校から、自分の味方であるはずの先生、親、友人から、善意に基づいているとしても、「学校に行く=危険な場所へ戻る」ことを求められると、逃げ切れない!という感情が生じ、「無気力」という反射反応で身を守ります。不登校の理由40%はここにあります。そして20%の人間関係と勉強が引き金になり否定的な未処理の記憶として保存され、自力では解決できないトラウマとなります。
このトラウマに対応できる治療法がEMDRです。2013年、世界保健機構(国連WHO)からトラウマに最も効果ある治療法として推奨されています。
EMDR療法は、神経ネットワークシステムに働きかける科学的な心理療法です。他のさまざまな療法と組み合わせ過去、現在、未来に直接かかわり、「いやがらせやいじめ」「先生との関係(皆の前で厳しく叱る。意図的に無視する)」「同級生、クラブ活動での友人、先輩からのいじめ」などの被害者トラウマの再処理や、「勉強という壁」を乗りこえる、現在、未来への力強い資源を開発し、それらを強化する加速器のような働きをします。私たちは、適応的情報処理システム(AIP)という環境に適応するため情報を処理するシステムを持っていますが、処理能力をはるかに超える苦痛な出来事に対面すると未処理な記憶としてトラウマという形で保存します。トラウマとなっているターゲットを再処理する前に、現状の安定化を目指し、さまざまなセルフコントロールの技法を身につける支援をし、肯定的な資源を探索し、これを強化します。十分な安定化と資源を得た後、適応的情報処理システムを再起動させ、ターゲット再処理の支援をしていきます。EMDR療法では未処理な記憶としてトラウマという形で保存されるには、何か重要な意味があると捉え、これを試金石出来事としています。試金石「過去から学び、未来への知恵とする」に寄り添い現在と未来のため、再処理を支援し、治療を進めていきます。
不登校の理由となっているくぼみや岩で例えられる障害物を乗りこえる力の獲得に、EMDRを用いてパフォーマンスを向上させるプロトコル(手順)というものがあります。スポーツ心理学の“エンパワーメント”と呼ばれる手法です。トラウマの再処理の後、自我強化スキルの構築の段階に役立てることもできます。将来的に向上させたい行動やパフォーマンスの目標を明確にし、最善のパフォーマンスを発揮するために修正しなければならないスキルの内、不足している部分を明らかにし、最善のパフォーマンスの妨げとなっているネガティブな考えを修正、取り除いていきます。未来における未来像をイメージすれば、そこまでの道程で障害となるものがはっきりと見えてきます。このスキル不足の補完・強化プロトコル(手順)によって、表に出てきた苦痛や不快感が、まだ残っていれば、後に、標準的なEMDRの実施が必要なこともあります。EMDRによるこのパフォーマンス向上プロトコルはもともとスポーツ選手や企業の重役に用いられてきましたが、不登校にも適用できます。学校に戻るだけではなく「不登校」という出来事を、今ここと未来への試金石とすることができるのです。未来を見据えた支援を目指すEMDRは、限りない可能性を秘めた生徒学生に、苦難を乗り越えることができた自分の力に気づかせ、今ここから空高く飛翔し、視野を広げ、洞察が深まり、幸せ・成功をもたらすことでしょう。
予防的な視点から「家族と学校の在り方」について心理療法家としての意見、要望をこの場をお借りし述べさせて頂きます。不登校理由の40%を占める「無気力」は上記のとおり、危険な学校環境から「逃走(交感神経)」しきれなかった結果として「凍りつき(背側迷走神経・シャットダウン)」が自動的な防衛反応として「無気力」で身を護ります。この神経システムを使わなければならない危険な環境とは何でしょう。それは自分ではどうすることもできない「仲間、先輩、先生からのいじめ、また彼らのそれを扇動する行為、そして、見て見ぬふり」であることを、症状に苦しむ生徒学生から悲惨な現状を具に学んでいます。これもすべて不健全な人間関係が起因となっています。つまり、不登校の原因の60%もが「人間関係」にあるのです。
現状が子どもたちの心の内に寄り添い包み込み守る教育・社会環境になっていないということの表れではないでしょか。身の危険を察知し、子どもたちは生まれながらにしてもつ防衛力を駆使し、危険から身を守ろうとしているだけなのです。それも意図するものではありません。生存のために5億年(背側迷走神経)、2億年(交感神経)、1億年(腹側迷走神経)を費やして築き上げてきた神経システムが生存のため自動的に反応しているだけです。決して、根性でも、資質でも、性格でもありません。「人は良くも悪くも環境によって決定づけられる」のです。現状の不登校を生みだしているその要因多くは、間違いなく教育社会環境といえます。
子どもの心を汲み取ることもなく「しつけ」と称する大人の価値観を一方的に押しつけ、耐えがたい苦痛を加えている状況はもはや虐待です。また、生徒、学生、先生が言葉の暴力で抵抗できない弱者を執拗に攻め立てるのは、最早、犯罪です。臨床現場で観る被害状況は明らかに障害事件です。全治何ヶ月、回復に数年という長い時間を要します。この状況は、身体的な傷害に置き換えると重症に相当します。心と身体は一体、心の痛みは身体の痛みですので「いじめ」は明らかに暴行ということになります。つまり、刑法にかかわる犯罪ということになります。今や教育現場が犯罪の巣窟になっている、というのが残念ながら目前に差し迫っている現実です。現に、「不登校」だけではなく、全日制の学校から通信制やフリースクールに緊急避難している生徒学生は増え続けていて、千葉駅周辺だけでも6校もあります。この事態とあれば、暴言を暴行と同じ扱いにし「いじめ」を犯罪と認識し、法的な制約、教育が必要な時期ではないかと思います。人の良心、良識だけに頼り託すことができない深刻な状況になっています。
これは、社会の未来を託す生徒学生の問題でもあり、社会問題でもあります。誘い、指導、教育ではなく、生存のため必死に自らを護ろうとしている彼らの心に、心から寄り添う姿勢が「生徒学生、家族、学校」に求められています。
*不登校やひきこもり、をひとつのトラウマによるものと考え、トラウマ治療のEMDR治療を行うことで、その状態の改善をはかり試みを千葉駅前心療内科ではおこなっています